いちご農薬に関する誤情報拡散
2022/06/04
目次
●希望のイチゴ 田中裕司著
まず、この本からの引用です。103ページ。
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「いちご王国」栃木県の平均農薬使用回数が52回、
生産量第2位の福岡県で63回、 長崎県で65回。
南の地域ほど農薬の使用回数が多くなる傾向がある。
気温が高いと病害虫の 活動が活発になるからだ。
リンゴ農家・木村秋則氏のベストセラー「奇跡のリンゴ」(幻冬舎)で無農薬栽培の難しさが 広く知られたリンゴだが、イチゴの農薬使用回数はそれを上回る。
例えば「リンゴ王国」の青森県では、リンゴの農薬使用回数は平均36回だが、
イチゴは40回だ。
つまり、65回の長崎県のイチゴは、青森県のリンゴの倍近くの農薬使用回数ということになる。
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以上、引用終わり。
●私の意見
この本は、いわばいちご版「奇跡のりんご」です。
無農薬いちごに取り組む姿勢は、それはそれで、尊敬します。
ただ、農薬使用回数と書いてあるのは、すべて成分回数のことであり、
具体的な散布作業はおよそ半分とみられます。
栃木県の52回というのは、殺虫剤と殺菌剤とを混ぜて1回の作業で散布するので、およそ26回の作業ということです。
52回も作業していては、水をためて、作業するだけで、
時間を取られますから、そんな散布作業ばかりは
やってられません。
さらに、栃木県の基準を見ると、開花前32,開花後20となっており、
花が咲いて、いちごがなっている間は20成分回数、作業としては、
およそ10回です。
2位の福岡県63回、長崎県65回となっていますが、
生産量の多い順なら、3位の熊本県、4位の静岡県を抜かして、
5位の長崎県に飛んでます。
なぜか、熊本県は促成:52成分回数;13か月、高設:60成分回数;14か月。
静岡県 ハウス促成54成分回数です。
要するに、いちごは農薬多いとイメージつけたいので、
多いところだけピックアップしているのです。
日本は世界3位の ”農薬大国” P109
110ページには、例のグラフだ。
114ページでは、
「粘着くん」を使っていることが書いてある。
「粘着くん」は確かに、デンプンが主成分なので、安全性には、
問題ないだろうが、これも農薬登録番号のある農薬だ。
だから、これを使う時点で、無農薬栽培ではない。
本書にも書いてある。以下、引用。
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これら安全性が確認されている天然素材であっても、
「駆除や防除」に使われるものは「農薬」と
定義されてしまう。
「無農薬栽培」というとき、問題にされるのはこの天然素材のものではなく
「化学合成農薬」ということをここで確認しておきたい。
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天然物なら安全信仰だと思うが、いちごハウスのビニールや暖房の燃料は、
化学合成したものだろう。
別に、そこまで「農薬」という言葉を避けなくてもいいと思う。
そして同じグラフが、別の著者によって拡散される。
●パクリの「日本が売られる」
「日本が売られる」堤未果著である。
このグラフの無意味さは別の記事でも指摘しているが、
もう一度言います。
面積当たりの農薬の重さを国別に比較しても意味がありません。
重いほど、毒性が強いわけでも、残留が多いわけでもないからです。
でんぷんで作った農薬も入っているからです。
丸パクリのIN YOU サイト
さらに、日本最大級のオーガニックサイトを自称する
INYOUには、以下の記述がある。
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残留農薬 第1位の果実「苺」。甘い味に隠された恐ろしい農薬の実態について
苺の農薬利用回数は50回~65回も
苺の農薬残留率について
「苺の農薬残留率が高い」というのは非常に有名な話で、
以前、NHKで報道された際には、残留農薬が高すぎるがために海外への輸出ができないと言われていました。
苺を最も生産していると言われる栃木県での平均農薬使用回数は52回と言われています。
生産量第2位の福岡県で63回、長崎県で65回。
ちなみに農薬残留率が高いと言われる第2位の果物はリンゴなのですが、
その農薬使用回数の平均は36回です。苺とリンゴの実の大きさも一緒に想像するとなんだかぞっとする回数ですよね。
https://macrobiotic-daisuki.jp/ichigo-66505.html
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栃木県、福岡県、のつぎ、熊本県・静岡県を抜かして、長崎県を取り上げている点は、そのままだ。成分回数と回数との理解もしてない。
りんごとの比較や数字も、まったく同じで、
丸パクリといわれても、仕方ないレベルだ。
そして、農薬残留率という言葉の意味が私にはわからない。
分子と分母は何の数字なんだろう。
この記事を初めて読んだときは、素人にしてはよく調べてあるな、
と思いましたが、ほぼ、「希望のイチゴ」からの丸写しなのです。
こうして、誤った情報が拡散していくさまが
よくわかる。
さらに、別の記事では、桃の防除暦については、以下のように
完全に誤った認識を書いています。
もうビツクリです!!
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(防除暦A,について)
1、4種類のネオニコチノイド系農薬をそれぞれ3回ずつ使用。
この防除暦については、4種類のネオニコチノイド系農薬の使用を勧めています。
5月…ジノテフラン3回、チアメトキサム3回
6月…クロチアニジン3回
8月…アセタミプリド3回
(防除暦B,について)
1、1種類のネオニコチノイド系農薬を3回散布
この防除暦についても、4月にクロチアニジン3回散布を勧めています。
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以上引用終わり。
防除暦Aについては、原文はボカシが入っていてよくわりません。
防除暦Bについては、確かに、4月下旬 ダントツ水溶剤 7日前/3回
となっています。
これを、4月しかも下旬だけでクロチアニジン(ダントツ水溶剤の成分名)を
3回散布勧めている、と理解している、ようです。
これは、とんでもない間違いで、ダントツ水溶剤を桃に散布する場合は、
年間3回までにしてください、「7日前」は収穫7日前までに散布終了してください、という意味です。
4月に3回散布してください、という意味ではありません。
下旬だけで3回も勧めていては、3日に1回散布する必要があります。
何でもかんでも完璧にしてから、書け、ともいいませんが、
農薬のラベルの読み方や防除暦の読み方の
あまりにも基礎的な内容をこのように
誤って拡散するのは、
ホントに困ったものです。
さらに、無農薬の桃といいながら、
農薬と同じ成分の硫黄入り入浴剤をかけた桃をありがたがって、
食べて関連サイトで販売している。
これは農薬取締法違反を助長している行為であることを
理解してません。
農薬でさえなければ何を散布してもいいと信じているようです。
※この無農薬桃のリンクは2022年6月現在、桃がないためか、切れています。
もとの記事の原文はこちらです。↓↓↓
https://macrobiotic-daisuki.jp/munouyaku-momo-200922.html
以下の記事には、「希望のイチゴ」と「日本が売られる」との関係が書いてある。
日本の農薬使用に関して言われていることの嘘 – 本当に日本の農産物が農薬まみれか徹底検証する
https://agrifact.jp/lies-about-the-use-of-pesticides-in-japan/
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by 長野県農薬管理指導士、農薬会社勤務30年